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ホワイトハウスで会談するトランプ米大統領(中央右)と石破首相(同左)。左端は岩屋外相、右端はバンス副大統領=7日、ワシントン(共同)
◆―― USスチール「投資」合意、対米投資1兆ドル
【ワシントン共同】石破茂首相は7日午前(日本時間8日未明)、トランプ米大統領と首都ワシントンのホワイトハウスで初めて会談した。トランプ氏は、対日貿易赤字の解消を要求。貿易不均衡が続けば、関税が選択肢となるとの考えに言及した。共同記者会見で、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を巡り「買収ではなく、多額の投資で合意した」と述べた。首相は対米投資を1兆ドル(約151兆円)規模に増やすと表明した。
貿易赤字を巡るトランプ氏の厳しい姿勢が改めて浮き彫りになった形。同氏は防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増やす日本政府方針を評価した上で「さらに増える」と強調した。日本の対米直接投資残高は2023年末時点で7832億ドル(約118兆円)ある。首相は会談で、日本企業による対米投資の例を挙げ、米経済や雇用への貢献をアピールした。
両首脳は、日米関係の「新たな黄金時代を追求する」と明記した共同声明を発表した。中国への対処を巡り、米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が沖縄県・尖閣諸島に適用されると改めて確認。台湾海峡の平和と安定が重要だと盛り込んだ。
日米同盟がインド太平洋の平和や安全、繁栄の礎であり続けると強調。日米豪印や日米韓、日米比といった同志国連携を重視する方針も掲げた。
会談では、米国から液化天然ガス(LNG)の対日輸出を増やし、エネルギー安保での協力を強化することで合意した。
USスチール買収計画を巡り、首相は会見で、トランプ氏と同様「買収ではなく投資だ」と明言。「日本の技術を加えて良い製品をつくり出す。トランプ氏と強く認識を共有した」と語った。
トランプ氏が言及した日本への関税措置に関し「互いの利益になることが重要だ」と指摘。米国に報復関税で対抗する可能性を問われたが「仮定の質問には答えかねる」と述べるにとどめた。
トランプ氏は、日本に対外有償軍事援助(FMS)として約10億ドル(約1510億円)分の装備品の売却を承認したと明らかにした。
首相は7日午後、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地を政府専用機で出発し、帰国の途に就いた。
◆―― 日米首脳会談・会見要旨
石破茂首相とトランプ米大統領の首脳会談と共同記者会見要旨は次の通り。
【関税】
大統領 対日貿易赤字解消に向け、関税が選択肢となる。解消に日米で取り組む。
首相 互いの利益になることが重要だ。米国への報復関税の可能性について、仮定の質問には答えかねる。
【USスチール】
大統領 日本製鉄による買収ではなく、多額の投資で合意した。
首相 買収ではなく投資だ。日本の技術を加えて良い製品をつくり出す。トランプ氏と強く認識を共有した。
【対米投資】
首相 対米投資を1兆ドル規模に増やす。
【エネルギー】
両首脳 米国から日本への液化天然ガス(LNG)輸出を増やし、エネルギー安全保障の強化に向けた協力を申し合わせ。
【安全保障】
大統領 防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増やす日本政府方針を評価。今日の協議によって、さらに増える。日本に対外有償軍事援助(FMS)として約10億ドル(約1500億円)の売却を承認。
両首脳 中国を念頭に、東・南シナ海で力による一方的な現状変更に反対。台湾海峡の平和と安定が重要だとの認識で一致。
【日米同盟】
両首脳 同盟の抑止力、対処力を高め、直面する地域の戦略的課題に緊密に連携して向き合う。米国による防衛義務を定めた日米安保条約第5条が沖縄県・尖閣諸島に適用されることを改めて確認。
◆―― 重層的な意思疎通継続を
【解説】石破茂首相はトランプ米大統領との初会談で日米同盟をさらなる高みに引き上げることで一致し、新たな関係強化へ踏み出した。共同声明で経済分野の連携推進も確認したが、個人的な信頼関係の構築は緒に就いたばかり。トランプ氏は予測不能な言動で知られており、政府間の重層的な意思疎通を通じて不確実性を最小化する努力が求められる。
トランプ氏は会談冒頭で対日貿易赤字の削減に取り組むと強調し、関税が赤字解消の選択肢になり得るとの考えに言及。高い関税を課すと示唆し、相手との交渉を有利に運ぼうとするのがトランプ氏の手法だが、各国、企業にとって大きなリスク要因になっている。
今回、首相は日本側からの投資実績と今後の計画を、事例を挙げながら説明。安全保障、経済、地域情勢で一致点を前面に出す形で会談を乗り切ったが、各論や細部を米側と協議する対話の枠組みなどは見えてこない。
外交、経済両面で重要なパートナーである日米関係をどのように維持、強化していくのか。首相や外交当局の手腕が問われる状況が続く。