天皇陛下、皇后さま
◆―― 広島、長崎、沖縄を検討
天皇、皇后両陛下が戦後80年の節目となる2025年、先の大戦の戦没者を追悼するため、広島、長崎、沖縄を訪問される方向で宮内庁が検討を進めていることが29日、分かった。政府関係者が明らかにした。戦後生まれの天皇として、悲惨な戦争の記憶と平和への思いを次世代へつなぐ姿勢を示す意向という。
平成の時代は在位中の上皇さまが上皇后美智子さまと共に、戦後の節目に「慰霊の旅」として国内外の戦禍の地を巡った。今回の両陛下の訪問では、直接戦争を知る世代だけでなく、戦争の記憶を語り継ぐ活動をする人々と交流する機会を設ける方向で調整する。
関係者によると、両陛下は、例年式典に出席する国民文化祭が9月に長崎県佐世保市であり、これに合わせて長崎市の平和公園へ足を運ぶ。広島、沖縄の訪問については夏ごろを見込み、調整を進める。広島は平和記念公園の原爆慰霊碑、沖縄は国立沖縄戦没者墓苑での供花などを検討している。
実現すれば、広島、長崎は即位後初、沖縄は22年10月以来の訪問となる。天皇陛下は21年の誕生日記者会見で「先の大戦で世界で唯一の被爆地となった広島、長崎に永く心を寄せていきたい」と語った。22年の誕生日会見では、太平洋戦争末期の沖縄戦と戦後の苦難に触れ「決して忘れてはならない」と述べていた。
上皇ご夫妻は戦後50年に際し「慰霊の旅」に赴いた。1995年7月に広島、長崎、8月は沖縄戦で多数の住民が犠牲になった沖縄、全国各地の空襲被害を代表して東京大空襲の死者をまつる東京都慰霊堂で拝礼した。戦没者慰霊を目的とした前例のない旅は、戦争を経験した上皇さまの強い思いから実現した。
戦後60年の2005年は海外で初となるサイパン、戦後70年の15年はパラオを訪問した。いずれも太平洋戦争の激戦地で、戦没者を追悼し平和への祈りをささげた。
◆―― 歴史を考える機会
【解説】戦後80年に際した天皇、皇后両陛下の訪問は、先の大戦の歴史を忘れず、「象徴」として平和への願いを示し続けていく意思の表れと言える。戦後生まれは人口の8割を超え、薄れゆく記憶を次世代にどう継承していくかが社会全体の課題となっており、節目の年に改めて考える機会となりそうだ。
天皇陛下自身1960年生まれの戦後世代で、戦争の時代を生きた上皇さまとは違う。上皇ご夫妻の「慰霊の旅」は戦没者の追悼とともに、遺族を直接慰撫(いぶ)する側面があった。戦争という共通の記憶で深くつながっていた。
陛下は実体験を伴わない難しさを認識した上で「歴史に対する理解を深める」ことの重要性をたびたび述べられてきた。戦争経験者が減る中で「次世代へ平和の思いを継承していく活動にまなざしを向けている」と側近は言う。訪問では、こうした活動に取り組む人々との交流が検討されている。