MOPAの発足など官民挙げて新エネルギー推進の取り組みが盛んだ
水素と洋上風力、2本柱 「脱炭素」アプローチ活発
石炭の積み出し港などで重要港湾に指定されるとともに、鉄鋼や造船、石油などの基幹産業が集積し、室蘭のものづくり企業が発展してきた。国のエネルギー政策や業界再編の波に翻弄されながらも、着実に産業基盤を築いてきた。今、世界的な脱炭素化社会への推進に向け、水素や洋上風力発電といった新エネルギー導入への取り組みが、ゼロカーボン推進とともに進められている。
2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを目指すカーボンニュートラル。20年、当時の菅義偉総理が表明。気候変動に対応した国際的な枠組み・パリ協定を受けて進められ、世界を見てもハイブリッドカー(HV)や電気自動車(EV)が台頭。洋上風力や水素、原子力、バイオマスを燃料として活用の模索の動きが広がりつつある。
室蘭市が次世代エネルギーとして着目したのは水素。公共施設に水素を配送する実証事業に着手する一方、室蘭港長期構想では洋上風力発電と水素受け入れ拠点港となる構想を掲げて、民間企業も参画する室蘭脱炭素社会創造協議会が設立された。
呼応するように、民間企業でも新エネ創出の動きが盛んになる。日本製鋼所M&EなどはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する水素製造、利活用ポテンシャル事業に採択された。産学官連携組織・室蘭洋上風力関連事業推進協議会(MOPA)も発足。洋上風力発電拠点港への機運が高まっている。
大手ゼネコンも室蘭港のポテンシャルを評価しており、大成建設は浮体式洋上風力発電の技術開発などで市と包括連携協定を締結。清水建設はSEP船の母港利用で同様に市と協定を結んだ。
室蘭はゼロカーボンシティ宣言で、再生可能エネルギーや水素を中心とした脱炭素化時代に貢献する「港湾・産業都市」であることが明記されたように、水素と洋上風力発電の2本柱が、室蘭で展開される新エネへのアプローチ手段。
現在、市内では室蘭ガスを代表事業者とした、既存インフラを活用した水素供給の低コスト化を目指す環境省のモデル構築実証事業が進んでいる。室蘭工業大学職員宿舎への熱源供給に加え、室蘭テクノセンターのロードヒーティング、くじら食堂(道の駅カナスチールみたら室蘭内)での水素ボイラーなどで活用されている。今月末からは、室蘭民報みんなの水族館(祝津町)横に設けた水電解装置が本格稼働。祝津風力発電所の電気で水素を製造するスケジュールで、2本柱の有効活用策を探っていく。
新エネルギーの有用性を周知しようと、市民向けのフォーラムなども盛ん。今月25日には環境科学館(本町)が入るえみらんでイベントを実施。親子向けに水素に触れられる機会を設けた。これまでにも複数回イベントは行われており、市民意識の醸成も同時に進められている。
道内では半導体メーカーのラピダス(千歳)が進出し、半導体の受託生産世界最大手TSMC(台湾)が熊本県菊陽町に工場を完成するなど、カーボンニュートラルへのアプローチは日増しに強まっている。廃棄物処理や副産物の再利用で資源循環型産業を確立している室蘭の存在意義は、今後の省エネ社会でも高まっていくことになりそう。
(第3部おわり)