就任式後、支持者の前で演説するトランプ米大統領＝２０日、ワシントン（ＡＰ＝共同）

◆――　移民阻止、パリ協定再離脱　多様性否定、領土拡張意欲
　【ワシントン共同】トランプ米大統領は２０日、就任演説に臨み、第２次トランプ政権が始動した。バイデン前政権の４年間で米国は衰退したと批判し「米国の完全な復活と常識の革命が始まる」と強調。不法移民の流入阻止に向け国境に関する国家非常事態を宣言し、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の再離脱など複数の大統領令に署名した。

　演説では、連邦政府が認める性別は「男性と女性だけだ」と性的少数者など社会の多様性を否定する考えを示し、領土拡張にも意欲を見せた。平和を構築する「仲裁者になる」と述べ、ウクライナ侵攻や中東情勢で戦闘終結に向けた仲介に乗り出す意向を示した。

　「米国民を豊かにするため関税を課す」とし、記録的なインフレを終わらせると語った。電気自動車（ＥＶ）普及策を覆すと表明。エネルギー分野でも国家非常事態を宣言し、化石燃料を増産するとした。

　トランプ氏は「不法移民の入国を直ちに止め、多くの外国人犯罪者を送り返す。軍を使って侵略を撃退する」と主張。国境関連の大統領令１０本に署名し、軍や国境警備隊を派遣して「壁」建設を推進する。近く不法移民の強制送還に乗り出し、麻薬カルテルを国際テロ組織に指定する考えだ。

　バイデン前政権が進めた多様性・公平性・包括性（ＤＥＩ）に関する政策を終わらせると語った。「米国は領土を拡大し、新たな地平線に米国の旗を掲げる」と強調。「中国がパナマ運河を運営している」と訴え、運河の管理権を取り戻すと宣言した。メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称するとした。

　政府が交流サイト（ＳＮＳ）を「検閲」していると主張し、停止するための大統領令に署名し「米国の言論の自由を取り戻す」と述べた。


　【米大統領の就任演説】米大統領が就任式で任期４年間の政権運営に向けたビジョンを示し、国民を導く決意を示す演説。南北戦争で分断された国民の融和を２期目の就任演説で呼びかけた第１６代リンカーンや、「自分が国家のために何ができるかを問いたまえ」と訴えた第３５代ケネディらの言葉が米国史を彩ってきた。トランプ氏は２０１７年の１期目就任式で「権力を首都ワシントンから国民に返還する。ここから、今から、全てが変わる」と演説した。

　【米大統領令】米大統領が立法手続きを経ずに連邦政府機関や軍に出す命令。法律と同等の効力を持ち、迅速に政策を進められる利点がある。議会が発効を禁じる法律を制定したり、最高裁が違憲だと判断したりすれば効力を失う。予算措置が絡む場合は議会の協力が必要。リンカーン大統領の奴隷解放宣言や、ルーズベルト大統領による日系人強制収容も大統領令に基づいた。大統領の行政措置はほかに、官報掲載の必要がない大統領覚書や拘束力がない布告がある。



◆――　政治の私物化、懸念増大
　【解説】トランプ米大統領は就任演説で、バイデン前政権で衰退した米国を立て直し「黄金時代」を築くと宣言した。不法移民急増や物価高への不満から、現状打破を求める国民の声に応えた。一方、昨年の大統領選勝利で「自身に対する数々の背信行為を覆す使命」が与えられたと復讐心をあらわにし、政治の私物化に懸念が強まった。

　演説では、国家が権力を利用して自身への弾圧を続けてきたと主張。２０２０年大統領選の敗北を認めず、刑事事件での起訴を「魔女狩りだ」と批判してきたトランプ氏は、政敵や捜査に関与した人々の訴追など報復を示唆してきた。

　政権幹部候補を自身に忠誠を誓う人物で固め、行政機関を意のままに操れるようにしているとの批判は根強い。復讐心や虚栄心から法の支配すら軽視すれば、米国の民主主義は後退に直面する。

　また、ノーベル平和賞受賞を切望するトランプ氏は演説で、交渉によるロシアとウクライナの戦闘終結など和平構築に積極的に関わる意向を示した。ただ、同盟国との連携については一切触れず、ここでも独善的な姿勢がのぞいた。軽率な行動は国際情勢の混乱につながりかねず、日本を含めた同盟国はトランプ氏や周辺に熟慮を促す努力が求められる。