停戦合意のニュースに喜ぶパレスチナ人ら=15日、ガザ南部ハンユニス(ロイター=共同)
◆―― 15カ月で4万6千人超死亡
【エルサレム、ワシントン共同】イスラエルとイスラム組織ハマスはパレスチナ自治区ガザの停戦に合意した。仲介国カタールと米国が15日発表した。履行開始は19日。6週間戦闘を休止し、ハマスは人質33人を解放する。20日のトランプ次期米大統領就任直前の妥結となった。2023年10月のハマスによるイスラエル奇襲から15カ月以上経過、戦闘が続きガザ側での死者は4万6千人を超えた。停戦維持と人質解放が順調に進み、恒久停戦につながるかどうかが焦点だ。
カタールのムハンマド首相兼外相やバイデン米大統領が明らかにした合意内容によると、第1段階は6週間でハマスは人質のうち女性や高齢者、負傷者を解放。イスラエルは拘束するパレスチナ人数百人を釈放する。ガザへの人道支援も大幅に拡大。ガザ住民は避難先から全域に帰還できる。イスラエル軍はガザの人口密集地から撤収する。
第1段階の期間中に、それ以降の停戦継続を協議。恒久停戦につながる第2段階の履行が始まれば、ハマスは男性兵士を含む人質を追加で解放し、イスラエル軍はさらにガザからの撤収を進める。イスラエルとハマスは恒久停戦で合意に至るまで交渉を続ける。
ハマスは声明で停戦合意は「抵抗の成果」だと強調した。イスラエルのネタニヤフ首相はバイデン氏とトランプ氏に電話で謝意を伝達。イスラエルメディアによるとネタニヤフ氏は16日に治安閣議を開き、停戦合意を正式に承認する。
イスラエル軍の空爆と地上侵攻はガザ全域に及び、人口の9割が自宅を追われた。子どもや女性ら民間人の犠牲が増加し、食料不足で人道危機が深刻化した。乳児の餓死や凍死も相次いだ。
停戦交渉は米国とカタール、エジプトを仲介役としてきた。イスラエルは自衛権を掲げ、攻撃を正当化した。米国は一貫して支持してきたが、一方的な被害拡大に国際社会から批判が強まった。
ハマスは戦闘開始以降、最高指導者だったハニヤ氏と後任のシンワール氏が暗殺された。イスラエル軍は拉致された人質奪還のため軍事圧力を強めたが、作戦で救出できた人質はわずかだった。
【イスラエルとハマスの戦闘】パレスチナ自治区ガザを実効支配していたイスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに越境攻撃を仕掛け、市民ら約1200人を殺害、多数を拉致した。イスラエル軍は直ちに報復空爆を始め、ガザの「完全封鎖」を宣言。同月下旬に地上侵攻した。人道危機が深刻化し、国連安全保障理事会は昨年3月、初の停戦決議を採択した。国際刑事裁判所は11月、ガザ戦闘を巡り、戦争犯罪などの疑いでネタニヤフ首相らに逮捕状を出した。
◆―― トランプ氏から強い圧力
【解説】イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザの停戦に合意した背景には、20日の就任前に停戦を望んだトランプ次期米大統領の強い圧力がある。トランプ氏はハマスを脅しただけでなく、イスラエルに次期政権の中東担当特使を派遣し、ネタニヤフ首相に妥結を迫った。
トランプ氏は、就任までにハマスが人質を解放しなければ「中東に地獄が訪れる」と警告してきた。ハマスは指導者2人を相次いで殺害されるなど、実効支配してきたガザで力を失った。共闘するレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラも指導者が死亡し、後ろ盾イランの影響力も減退。戦闘継続は困難で、合意を受け入れるしかなかった。
一方、ネタニヤフ氏にとっては、トランプ氏との関係維持が喫緊の課題だった。昨年11月にヒズボラと停戦したが、これもトランプ氏への「贈り物」と伝えられた。ハマス壊滅に固執するネタニヤフ氏こそ、ガザ停戦交渉の「最大の障害」とも指摘されていた。
イスラエル軍はヒズボラとの停戦後もレバノンへの攻撃を続けている。ガザでの長い戦闘により、イスラエルとハマスの相互不信や憎悪は根強く、戦闘再燃の恐れもある。米国の政権交代が重なり、将来のガザ統治の在り方も見えないままだ。