韓国の尹錫悦大統領(ロイター=共同)
【ソウル共同】韓国高官犯罪捜査庁(高捜庁)や警察などの合同捜査本部は15日、「非常戒厳」宣言を巡る内乱容疑などで尹錫悦大統領を拘束した。現職大統領の拘束は初めて。今月3日に拘束を試みたが、大統領警護庁に阻止され断念。15日未明(日本時間同)に再び拘束に乗り出し、公邸前で一時警護庁側と対峙した後、午前10時33分に拘束令状を執行した。
尹氏は国会で弾劾訴追され、職務停止中だが、内乱罪には当たらず捜査も違法だとして徹底抗戦を続けている。憲法裁判所で始まった罷免の是非を判断する弾劾審判でも自らの正当性を主張。保守層から一定の支持をなお集めており、今後も政治的混乱が続きそうだ。
大統領には不訴追特権があるが、内乱罪は例外に当たる。高捜庁は尹氏が3度の出頭要請に応じなかったため、2度にわたって拘束令状を請求。ソウル西部地裁がいずれも発付を認めた。
尹氏は昨年12月3日夜、野党が国政や司法をまひさせているとして戒厳令を宣言した。戒厳司令部は政治活動の禁止や言論統制などを布告し、軍が国会に突入。国会が解除要求決議を可決したことを受け、尹氏は約6時間後に解除した。
国会は12月14日、野党が戒厳令は憲法違反だとして提出した2度目の弾劾訴追案を可決。12月27日には尹氏の大統領権限を代行していた韓悳洙首相の弾劾案も可決した。
捜査当局は戒厳令を巡って尹氏と共謀した金龍顕前国防相や、国会封鎖に関与した警察や軍の幹部を相次いで逮捕、起訴した。検察は尹氏が軍幹部らに国会封鎖などを直接指示したとの捜査結果を公表している。
尹 錫悦氏(ユン・ソンニョル) 1960年12月18日、ソウル生まれ。88年ソウル大大学院法学科修了。91年司法試験合格。検事として政界関係の捜査に注力。2016年に朴槿恵政権の不正を調べる特別検察官チームのトップに抜てき。19年検事総長。検察改革を進める文在寅政権と対立し21年3月辞職。6月に大統領選出馬表明。7月「国民の力」入党。22年3月大統領当選、5月就任。24年12月14日、弾劾訴追され職務停止。
【韓国大統領】18歳以上の有権者による直接選挙で選ばれ、任期5年で再選禁止。被選挙権は40歳以上。尹錫悦氏で13人目。大統領府高官や閣僚の人事権、国会で議決された法案への拒否権、軍の統帥権など広範囲に強大な権限を持つ。北朝鮮有事に即応できるよう権限を集中させていることが背景にあり「帝王的大統領制」とも言われる。再選がないため任期終盤は求心力が低下する傾向にある。退任後に在職中の不正などで捜査を受けるケースも多い。
◆―― 「法治」軽視、対立あおる
【解説】韓国の尹錫悦大統領が15日、「非常戒厳」宣言を巡る内乱容疑で拘束された。捜査当局の出頭要請に一切応じず、大統領警護庁を動員して拘束令状執行も1度は阻止。検事総長まで務めた法律家が「法治」への抵抗を重ね、国民の対立をあおった責任は重い。
尹氏は昨年12月、戒厳令を巡り「法的、政治的な責任を回避するつもりはない」「弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう」などと表明した。捜査に応じない背景には、憲法裁判所での弾劾審判を優先させたい思惑があるとされるが、当初表明した「堂々と」とはほど遠いとの声も多い。
さらに、尹氏は今年1月1日、公邸前に集まった支持者に「皆さんと一緒にこの国を守るために最後まで闘う」とする署名入りのメッセージを配布。国内対立をあおったと批判されている。
一方、尹氏を拘束した高官犯罪捜査庁は本来、内乱罪の捜査権を持たないとの指摘もあるなど、捜査手続きを巡る法解釈が定まらない中で尹氏側の主張がことごとく退けられ、保守層には不満が鬱積(うっせき)している。
最近になり与党「国民の力」の支持率が急上昇するなど保守結集の動きも出ており、革新層との対立激化も懸念される。政局安定化はほど遠い状況だ。