ノックを打つ室清水の福島マネジャー=23日、とましんスタジアム
◆―― 女性ノッカー、続けて良かった
熱戦が繰り広げられている第106回全国高校野球選手権大会南北海道大会室蘭支部予選も29日が最終日。負ければ引退。選手だけでなく、チームを支えるマネジャーにとっても最後の夏だ。大会2日目の第1試合前。「いくよー!」、大きな声が響いた。室蘭清水丘マネジャー兼ノッカーを務める福島ゆらさん(17)の声だ。各ポジションを呼び、仲間がグラウンドの感触を確かめられるよう、一本一本、丁寧にノックを届けた。
「もう一度、ノックを打ちたい」。そう願い、ベンチから誰よりも大きな声援を送った。勝ちをつかみかけた試合も、守備の乱れから失点するチームに、野球の神様がほほ笑むことはなかった。「辛かった。やるせない気持ちでいっぱいだった」。
選手の前で絶対に泣かないと誓った。九回、アウトを示す赤ランプが一つ、二つと灯(とも)ると、スコアを付けていた目から涙がこぼれた。願った勝利には届かず、応援席へのあいさつを終えると、帽子で顔を覆った。
試合後、これまでを振り返り「(野球)最初は好きじゃなかった」と明かした。小学5年の冬、野球好きな父・卓さん(44)の勧めもあり、弟とともに鷲別ランナーズに入団。中学校進学後も野球部に入部し、プレーするうちに好きになり、没頭していた。
「何度も辞めようと思った」。同校野球部には女子部員がいなかったこともあり、学校生活や人間関係で悩みが尽きなかったという。3年間やり切れたのは「野球が好き」な気持ちと3年生7人、後輩たちの存在。「力になりたい」と作ったお守りを手に、「続けていて本当に、本当に良かった」と涙をぬぐった。
「お疲れさま」。勝って喜ぶ娘を見届けることはできなかった卓さんがつぶやいた。「大変なことが多かったと思う。3年間、楽しそうな姿を見せてくれて良かった」と目を細めた。頬にはまだ涙跡が残る。それでも前を向いた。「(受験や学校生活に)気持ちを切り替えなきゃ」