宮城県の東北電力女川原発2号機(奥)=24日(共同通信社機から)
◆―― 13年ぶり、福島第1と同型
東北電力は29日、運転停止中の女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機の原子炉を起動し、再稼働させた。2011年3月11日の東日本大震災の被災地で13年ぶり。過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても全国初の再稼働となる。
2号機は出力82万5千キロワット。東北電は29日午後、核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く作業を始め、原子炉を起動した。3時間程度で核分裂反応が安定して続く「臨界」に到達する見込み。11月7日にも発電を再開し、12月ごろに営業運転を開始する計画。
林芳正官房長官は29日午前の記者会見で、「原子力は再生可能エネルギーと共に、脱炭素電源として重要だ。安定供給の観点からも安全性の確保を大前提に最大限活用を進めていく」と述べた。
女川原発は東日本大震災の震源に最も近い原発で、最大約13メートルの津波が襲った。震災前、敷地は海抜14・8メートルだったが、冷却用水を取り込むための取水路から海水が流入し、原子炉起動中だった2号機原子炉建屋地下が浸水。外部電源は5回線のうち4回線が停止したが残った電源で冷却を維持し、1~3号機を冷温停止させた。
東北電は13年5月、再稼働に向けた安全対策工事を開始した。同年12月、原子力規制委員会に再稼働に向けた審査を申請し、20年2月に合格。同年11月、村井嘉浩知事が再稼働同意を表明した。
今年5月、津波対策として国内最大級となる海抜29メートル、総延長約800メートルの防潮堤などを整備する安全対策工事が完了した。
【女川原発2号機】宮城県の女川町、石巻市にある牡鹿半島に立地する東北電力の原発。沸騰水型軽水炉(BWR)で出力は82万5千キロワット。1995年に営業運転を開始した。2020年2月、再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査に合格。24年には30年超運転に必要な認可申請書を原子力規制委員会に提出した。1号機(52万4千キロワット)は18年に廃炉が決まり、3号機(82万5千キロワット)は原子力規制委員会への審査申請を検討中。
【沸騰水型軽水炉(BWR)】圧力容器の中で冷却水を沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回して発電する原子炉。放射性物質を含む冷却水がタービン系にも回るため被ばく対策が必要。東京電力福島第1原発や同柏崎刈羽原発1~5号機などが採用している。加圧水型軽水炉(PWR)は圧力をかけて沸騰を抑えた1次冷却水の熱を2次冷却水に伝える。放射性物質を含む1次系と、発電タービンを回す2次系が分離されている。
◆―― 被災地の不安払拭継続を
【解説】東北電力女川原発2号機(宮城県)が再稼働した。政府は電力需要増を見据え原発利活用を進めており、経済効果や脱炭素電源としての役割を期待する声もある。ただ、隣県で過酷事故を起こした東京電力福島第1原発とは同型機で、東日本大震災被災地の思いは複雑だ。再稼働は住民の信頼確保に向けた第一歩に他ならず、不安払拭へ取り組みを続けることが不可欠だ。
東北電は11年の歳月と約5700億円をかけ、国内最大級の防潮堤を整備するなどの大規模な安全対策工事を今年5月に終えた。「事故を起こした東電とは違う」という思惑も透ける。ただ対策はリスクゼロの根拠にはならない。
能登半島地震では原発事故時の避難道路が寸断し、自治体が策定した避難計画の実効性に疑問の声が出た。同じく半島に位置する女川原発について心配する住民もいる。避難計画に不備がないか再確認し、充実させていくことは、国や県と共に事業者が向き合うべき課題だ。
原発事故直後、放射性物質に対する不安が現実味を帯びたのは福島だけではなかった。「原発は何重もの対策があり、過酷事故は起きない」との安全神話が欺瞞に過ぎなかったことを痛感したのは誰より被災地の人々だ。安全面の検証を繰り返し、情報公開を徹底することが、被災地の原発を動かす上で最低限の責任と言える。