イランのミサイル発射を受け起動した迎撃システム＝１日、イスラエル中部アシュケロン（ロイター＝共同）

◆――　ハメネイ師決断、けが人も
　【テヘラン、エルサレム共同】イランは１日、イスラエルに弾道ミサイルを発射した。レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの指導者ナスララ師らが殺害されたことへの報復。イラン革命防衛隊が発表した。イスラエル軍は飛来した弾道ミサイルを１８０発以上と分析した。イスラエルへの直接攻撃は４月以来２回目。昨年１０月からのパレスチナ自治区ガザの戦火がイスラエルのレバノン地上侵攻に拡大した直後で、中東情勢はさらに緊迫の度が強まった。

　イラン高官は１日、最高指導者ハメネイ師が１日朝に報復を決断したと共同通信に明かした。イラン国営テレビによると、攻撃には極超音速弾道ミサイル「ファタ」が使われた。イスラエルメディアは、中部テルアビブで２人が軽傷を負ったと伝えた。

　革命防衛隊は声明で、ナスララ師らへの攻撃が計画されたイスラエルの軍事施設を標的にしたと主張し「イスラエルが反撃したら、より激しく攻撃するだろう」とけん制した。イランのペゼシュキアン大統領はＸ（旧ツイッター）への投稿で「イランは好戦的ではないが、いかなる脅威にも断固として対応する」と強調した。

　ただイランのアラグチ外相は、イスラエルが反撃しなければ「われわれは行動を終了する」と表明。紛争拡大を避けたいとの思惑もにじませた。

　一方、イスラエルのネタニヤフ首相はビデオ声明で「イランは大きな過ちを犯した。代償を支払うことになるだろう」と述べ、さらなる報復を誓った。

　ヒズボラはガザのイスラム組織ハマスと共闘し、イスラエル軍と交戦。軍は９月２７日、空爆でナスララ師らを殺害。１０月１日、ヒズボラ掃討のためレバノン南部に地上侵攻したと発表した。

　イランは４月、シリアの首都ダマスカスの大使館が空爆された報復として、弾道ミサイルや無人機でイスラエルを初めて直接攻撃。イスラエルもイランの空軍基地に反撃した。


　【イランとイスラエル】中東最悪の敵対関係。イランはイスラエルをパレスチナの占領者と位置付け、国の生存権を認めていない。イスラエルは中東各地の親イラン勢力と攻撃の応酬を続けている。７月にはイランが支援するパレスチナのイスラム組織ハマス最高指導者だったハニヤ氏がイランで暗殺。ハニヤ氏はガザ停戦交渉で中心的役割を担っていた。イスラエルは９月、親イラン民兵組織ヒズボラの指導者だったナスララ師を殺害し、ネタニヤフ首相は「歴史的」と成果を誇示した。



◆――　失った体面の回復優先
　【解説】イランが再び、敵対するイスラエルへの直接攻撃に踏み切った。報復の連鎖に陥るリスクを取ったのは、イラン指導部が失った体面の回復を重視した結果だ。短期間で親イラン勢力のトップ２人を失い、イランはいずれもイスラエルの仕業だと断定。反米、反イスラエルを掲げる「抵抗の枢軸」の盟主として、断固とした態度を示す必要に迫られていた。

　イランの首都テヘランでは７月末、イスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が暗殺された。ペゼシュキアン大統領の就任式に招いた「客人」を殺害され、体面を重んじるイラン人の間に「恥だ」との受け止めが拡大。ただパレスチナ自治区ガザの停戦交渉を優先し、報復は踏みとどまった。

　そんな中、９月２７日にレバノンの民兵組織ヒズボラの指導者ナスララ師がイスラエル軍の空爆で殺害された。同師は３０年以上、ヒズボラを率いたカリスマ指導者。「抵抗の象徴」だった２人を相次いで失い、イラン指導部を支える保守強硬派を中心に報復を求める声が拡大。軍がレバノンに地上侵攻したことも追い打ちをかけたとみられる。

　イランから直接攻撃を受けた４月と同様、イスラエルが反撃するのは間違いない。今回のイランの攻撃は４月とは比較にならないほど激しく、イスラエルも相応の対応を取るとみられ、戦火拡大は不可避の状況だ。