「良いお客さんが多かった」と閉店にあたり感謝を述べる富士子さん
崖の上に立ち、異国情緒あふれる造りや映画のロケ地として話題となった喫茶店「ランプ城」(室蘭市栄町)が、62年の歴史に幕を下ろした。長年店を切り盛りしてきたオーナーの櫻庭シズさんが4月に94歳で死去。同月に閉店した後も、味や雰囲気を懐かしむファンから問い合わせの電話が届くという。
中東をイメージした照明。天井には多くのレコードジャケット。閉店後もレトロ感漂う店内の雰囲気は変わらない。シズさんの娘、富士子さん(55)によると「ランプ城」は1962年、タンカーの船乗りをしていたシズさんの知人男性が、敷地の下に広がる景色が気に入って自宅を建て店をオープンした。
68年にシズさんがオーナーを引き継いだ。市内の人口減少などで厳しさを増す経営。一部の客から嫌がらせを受けることもあったという。それでも「仕事は趣味」と気丈に振る舞い、人気のオムライスは味のまとまりを意識し、しっかり焼いた卵焼きを採用した。
忙しい中でもまな娘4人には愛情を惜しみなく注ぎ、「運動会にはのり巻きやいなりずしを手作りして来てくれた」と富士子さん。家庭と仕事を両立させる優しい母親の一面もあった。
転機が訪れたのは2011年ごろ。札幌のブロガーの来店だった。独特の立地や雰囲気から「お化け屋敷」とやゆされていた店は、ブログを介して海外までひそかに広まった。翌12年公開の実写版映画「妖怪人間ベム」ではロケ地に選ばれた。
閉店まで多くのファンに愛された。交流サイト(SNS)にも「安らかに」「ご冥福を祈ります」など追悼のコメントが多く寄せられている。
富士子さんは「料理を喜んで食べてくれるなど良いお客さんが多かった。ありがとうございます」と感謝を口にした。